三篠の後をついていくと、屋敷の前には車輪が燃えている乗り物があった。




そしてそれを引っ張るのは大きな猫。
これは『火車(カシャ)』という妖怪らしい。




本来は悪行を積み重ねて死んだ人間の亡骸を奪うという妖怪らしいけど、三篠が手懐けて今は運び屋として活用してると桔梗さんが説明してくれた。




最初はちょっと威嚇されて怖かったけど、三篠が私を紹介したら懐いてくれた。
ちなみにこの火車の猫の名前は、神楽(カグラ)。




三篠に手を引かれ、神楽が引く火車の中に入った。
三篠の隣に座ると、後から桔梗さんと瑠璃葉が乗ってきて二人は私達の向かいに座った。




桔梗さんと瑠璃葉が座ったのを合図に、火車は動き出し空を駆ける。




火車の中で三篠と桔梗さんと瑠璃葉の三人は深刻な顔で話し合いをしていた。




「…妖王から重大な情報を得た、ということは妖王は動き出すということでしょうか?」


「きっとそうだろうな。
どう動くのかは胡蝶ノ国に行って聞いてみないことには分からないが」


「…このタイミングで動き出すってことは、もしかしたら姫様を狙ってのことかもしれないね」




桔梗さん、三篠、瑠璃葉の順番で言葉を発している。
三人の会話は理解出来ないけど、とりあえず気になることがあった。




「…あの、"胡蝶ノ国"ってなんですか?」




控えめに手を挙げ、会話に参加する。
すると三人とも一斉に私を見た。




そしてしばらくの沈黙の後、三篠が説明してくれた。




「…純妖の一族はそれぞれに国を有しているんだ。その国は妖王から与えられたもので、その妖怪に見合った名前が付けられる」




とりあえずそれぞれの純妖の一族は一つの国を持っていて、国の名前はそこに暮らす妖怪の特徴から付けられるってことは分かった。




三篠の説明に付け加えてくれたのは瑠璃葉だった。




「…胡蝶ノ国ってのはアタシの一族、つまり純妖の毛倡妓達が暮らす国なのさ。
毛倡妓は皆、遊女の姿をしているからね。夜の蝶ってことでこの名前になったってアタシは聞いたよ」




確かに人間界でもキャバ嬢を夜の蝶とかって言ったりする。
その考えは人間界(あっち)でも妖界(こっち)でも同じなんだ。




……ん?毛倡妓は遊女の姿をしてるって言ったよね?




ってことは……




「…瑠璃葉、もしかして瑠璃葉の故郷の胡蝶ノ国って……」




恐る恐る聞くと、瑠璃葉は躊躇うこともなく答えた。




「…あぁ、アタシの育った胡蝶ノ国は遊郭だよ」