「…これくらいでいいかな」




ボストンバッグにある程度の四季の服や下着を詰める。
深寿さんから着物を借りたいところだけど、一応現代人であって着物は動きづらい。




下着は面積が少ないのをと三篠が言ったので、頭にチョップをお見舞いしておいた。




もう少し洋服とか持っていきたいけど、ボストンバッグが悲鳴をあげているのでまた取りに来よ。




私はこれからしばらく妖界(あっち)に滞在する。
今はそのための荷造りをしていた。




深寿さんが気になってたドライヤーも持ったし、そろそろ行こうかな。




重たいボストンバッグを両手で持ち、部屋を出た。




妖怪の世界と人間界を結ぶ大きな鏡のある本殿の戸を開ける。




「…随分とたくさん持っていくのね?」


「そんなに持って行ってどうするんじゃ…ったく」




本殿にはお母さんがパンパンのボストンバッグを見て眉をハの字にして笑い、おじいちゃんは呆れてため息をついた。




そこにいたのはお母さんとおじいちゃんだけじゃなかった。




「どうせ大量の菓子でも入ってんだろ。雛姉は暴食だか…いって!るみ姉いきなり叩くなよ!」


「…雛姉の悪口言わない」




私のことを悪く言った大地が来海に頭を叩かれていた。
前から変わらない家族が、お見送りに来てくれていた。




それだけで目に涙が溜まる。
でも流さないように、グッと堪える。




来海と大地のコントのようなやりとりはしばらく続き、終わると来海が私の元に近付いてきた。