「……いいえ。彼はまだ妖王にはなれないわ」
「…え、……」
今まで三篠に口付けについて追及していたお母さんは、私の言葉をアッサリと否定した。
それには三篠も驚いている。
「おい、俺が妖王になれないってどういうことだ…!?」
「よく聞いてた?私は"まだ"妖王にはなれないって言ったのよ?」
「………まだってどういう…」
お母さんの言ってる意味が分からなかった。
三篠が妖王になる条件は揃ってるのに、妖王にまだなれないって…どうして…
お母さんは一度目を伏せると、三篠を真っ直ぐに見つめた。
「…三篠、と言ったわね?
あなた、小雛の血を飲んでもまだ妖怪の力を覚醒させてないわね?」
「…………っ」
お母さんの言葉に、三篠は聞かれたくなかったことを聞かれてしまったように表情を鋭くした。
妖怪の力とは狂愛ノ書にも書かれていた、妖王としての力のこと。
私はてっきり深寿さんが仕掛けた時に私の血を飲んで以来、三篠は妖怪の力を覚醒させたと思っていた。
そしてふと桔梗さんが三篠に『まだ妖怪の力が覚醒していない』と言っていたことを思い出す。
あれはこういう意味だったの?
「…小雛の傷を口付けで治せたのはきっと、あなたには妖王の"素質"があるということ。
でもあなたは小雛の血を飲んでも、妖怪の力を覚醒出来ていない。
だからあなたはまだ真の妖王にはなれないってことよ。
妖王になるには妖怪の力を覚醒させなければなることは出来ない」
今の妖王もきっと同じよ。
お母さんは付け加えて言った。
確かに今の妖王にも妖怪の力はないはず。
だって鵺姫である私がここにいるのだから。
今の妖王は自らを妖王と名乗っているだけで、本当の妖王じゃないんだ。



