「…小雛?こんなところで何してるの?」




本殿の出入り口に現れたのは、久しぶりに見たお母さんだった。




お母さんは相変わらず優しい微笑みを浮かべて私を見ている。




あ、そっか。
お母さんは紅葉と三篠のこと見えてないんだよね。




そう思っていたのに、お母さんの言葉は耳を疑うもので。




「……あら、帰ってきたのね小雛」




おかえりなさい。
お母さんはそう言って笑ってるけど、言ってることがおかしい。




おかえりなさいって、まるで私が今までどこかに行ってたのを知ってたみたいな言い方。




だって紅葉が私に化けて私のフリをしてくれていたはずなのに、おかえりって。




するとお母さんの視線は次に三篠に向いた。




「…小雛の周りをうろちょろしてると思ったら、やっぱりあなたが妖王だったのね」




うろちょろしてるって、お母さんはずっと三篠が見えていたってこと?
考えられるのはこれしかないのに、信じられない。




お母さんは紅葉に近付いて、紅葉に目線を合わせてしゃがんだ。
紅葉は構えてお母さんを警戒している。




「あなたが小雛に化けていた子狐ね?
想像以上に可愛らしいわ」




お母さんを警戒していた紅葉だけど、お母さんに耳を撫でられて尻尾を振っている。
紅葉……




もう訳が分からずに隣にいた三篠を見上げる。
三篠は苦笑いをして腕を組んだ。




「……最初から俺らの姿が見えていて、見えないフリをしていたのか」




これはやられた。
三篠はお手上げ、というように両手を顔の横に挙げた。




お母さんはスッと立ち上がると、三篠を見て満面の笑みを浮かべた。