「おいそこのお前、止まりなさい!」

入って早々、スーツを身に着けている警備員に声をかけられた。

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ、帰りなさい!」

「失礼いたします。わたくし、貴校の1年、草薙隆雄の使用人をしております……」

「そんな誰でも分かる嘘をつくな。よくいるんだよね、学校入りたさに迷惑な話だ」

「そんな……」

「即刻立ち去れ。警察を呼ぶぞ」

どうしよう。
抱えるように持っていた問題集に皺が寄る。
その時、学校のチャイムが鳴った。

「さあ、帰った帰った」

「ちょ、ちょっと!」

くるりと反転させられ、背中を押される。
このままだと、言葉の通り門前払いをくってしまう。
それはまずい。
なんとか説得を………。

「わっ!」

いきなり横から腕を引かれ、何かにぶつかった。
次の瞬間には聞き慣れた声が頭上から降ってくる。

「うちの使用人に何か?」

「はっ、これは草薙様。なんでもありません、どうぞ、お気になさらず」

「そうか。………行こうか」

そう優しく言って、御曹司は私の肩を抱くようにして校舎がある方に歩き出した。
すぐ隣にいる彼の顔を横目で見上げる。
隙のない笑顔、初日以来の好青年面だった。
屋敷での悪行を知っているだけに……。

「………気持ち悪い」

と思ってしまうのは無理のないことだと思う。

「なにか言った?」

「いいえ、なにも」

好青年キラキラスマイルに、営業スマイルで対抗する。
一般的にどちらの威力が強いかなんて、口に出すまでもなく明らか。
ただ、重要なのは相性。
私は嘘くさい好青年キラキラスマイルにはだまされない。