「お帰りなさいませ、隆雄様」

「隆雄様宛てにこういうものが届いております」

身の入らない授業を受けて帰り、屋敷の扉を開けるとメイドが一通の封筒を渡してきた。
大きめのそれを裏返してみると、差出人は『風神威士』とある。
誰だ、俺にそんな名前の知り合いはいない。
そこでふと引っかかった。
天花寺が言ってた招待状。
今日の夕方には届くと言っていた、あれのことか。

俺は早速封を開ける。
中にはとあるホテルのパンフレットと、手紙が入っていた。
要約すると。
『天花寺麗の紹介でこれを送らせてもらう。うちのホテルは近日パーティーを行うが、ウエイターの手が足りていない。よければ手を貸して欲しい』
という事が書いてあった。
パーティーは1週間後の夜にある。

空けておけってこの事か。
俺に他人に尽くせと……!
いや、ここは大人になれ、あいつに会うための手段だ仕方ない。
ってか、風神ってあの風神かよ。
高級ホテルチェーンを経営している風神財閥。
天花寺のやつ、どんなコネ持ってやがんだ。

「あの……隆雄様?」

「あ、ああ何だ」

「旦那様がお呼びです。なんでも、新しい婚約者候補を連れてきたとか」

「わかった、すぐ行く」

俺はパンフレットと手紙を封筒に戻し、鞄とともにメイドに預ける。
後は彼女が部屋に運んでくれるだろう。

応接室に入ると、既に親父と先方の方が待っていた。

「お待たせしました」

「初めまして、わたくし……」

「申し訳ありません」

新しい婚約者候補であろう女を遮り、頭をさげる。
周りが困惑するのがわかった。

「俺、あなたと婚約は出来ません」

「隆雄! 何を言ってるんだ!」

「心に決めた人がいるのです、その人以外は考えられない。このお話はなかった事にしていただきたい」

お願いします。
と頭を下げた。

「隆雄やめなさい」

「いいのですよ、わたくしは何も困りませんから」

「何?」

いつもとは違う雰囲気に、ただならぬものを感じた。

「申し訳ありません、すぐ戻りますから」

俺は親父に引っ張られ、廊下に連れ出された。
扉が閉まると同時に詰め寄る。

「なんなんだよ一体」

「今回の婚約は今までとは訳が違うんだ」

親父が言うには、草薙の悪行が知られ、次々に取引を切られているのだという。
この婚約で草薙の未来が決まるのだ。

「だから、この婚約は絶対だ。お前のわがままは許されない」

わかったなと念押しされて、応接室への扉が開かれた。