住む所だと小屋を提供すれば、あからさまに嫌な顔をされた。
仕事を与えれば、キンキンわめいた。
ただ、俺に甘えたように擦り寄り媚を売る。

イラついた。
立場を分かれよ。

そして、そいつの家を潰した。
もともと業績の良くない会社だ。
特別な事はしなくても、ただ手を切るだけでいい。

それを幾度となく繰り返した。

流石に何社も同じようなことが続くと、不信感が生まれ草薙の悪評がたつ。
適度にもみ消した。

祝前が来たのは何人目の時だったか。
今度こそ骨のあるやつならいいなと思いつつ、どうせすぐ出て行くだろうと諦めもあった。
従順で、いかにも気の弱そうなあいつは文句ひとつ言わない。
今までの奴らのように遊んでやった。

祝前麻里奈の偽者が来てから1ヶ月。
メイドのひとりが俺に盾突いた。

あいつが今までの奴らとは違う?
ふざけるな、女はどいつもこいつも一緒だろ。

俺に逆らうなら、このメイドもクビにしてやる。

そう言ってやった瞬間、俺への暴言とともに後頭部に衝撃がはしった。
振り向くと、祝前麻里奈の偽者がいた。
祝前ごときが俺を侮辱しやがって。

せっかくだから、俺のやりたいようにやった。
俺自身の手で首輪と犬耳尻尾をつけて、征服欲が満たされ満足した。
犬になったあいつは俺に反抗的だった。
でもまあ、ちょっとくらい反抗的な方が楽しめるってもんだ。

風呂場や部屋で暴れまわったのは、柄にもなく楽しかった。
気付けば、思い通りにならないあいつを気に入っていて。
ずっと傍に置いておきたいと思った。

だから余計に、嘘をつかれていたことがショックだった。

「隆雄様、着きましたよ」

運転手に言われて初めて、車が学校の前まで来ていたことに気付いた。

「ああ」

俺は車を降りて、変哲のない学校生活を送る。

はずだった。

「今日をもって、天花寺が花園女学院に戻ることになった」

朝のホームルーム、担任の言葉がやけに鮮明に耳に飛び込んできた。
はっとして顔を上げると、担任の隣に立つボサボサ瓶底眼鏡が、心にもない挨拶をしているところだった。

花園女学院って言えば、本物の祝前麻里奈が通っていた学校だよな。
小さな可能性に賭けてみる。

休み時間になった。
今日でここを去るくせに、彼女の周りに人はいない。
それもそうだ。
彼女がここに来て誰かとしゃべっているところなんて、偽者の祝前麻里奈を除くと見たことがない。
俺にとっては好都合だ。

「天花寺、ちょっといいか?」

「構わない」

彼女は席を立ち、先を行く俺についてきた。