「矢沢く、」

矢沢君の名前を呼んで、あたしが駆け足で向かおうとすると、

「ねぇ君、かっこいいねー!高校生?」

あたしが矢沢君の元に駆け寄る前に、いきなり数人の美女が矢沢君に声を掛けた。

「…………」

当のあたしはそんな不意打ちな光景に呆然としながら「え。あれって逆ナンパなんじゃ……」なんて思いつつ、じとっとした目で矢沢君がどう出るのかを観察した。


「ねぇねぇ、今から暇?」

「暇だったらあたし達と遊ばない?」

「楽しいところ知ってるんだけどなあ」

猫なで声と上目遣いで矢沢君を誘いこもうとしてる美女たちは何かと必死そうに見える。

矢沢君は世間的にイケメンと呼ばれる部類に入るんだと思うし、声を掛けられるのも無理はないだろうと思う。

けど、何も喋ろうとしない矢沢君にあたしはちょこっとだけ不満だ。早くあんな人達追い返しちゃえばいいのにと思ってしまう。


そんなあたしの思考がテレパシーで矢沢君に届いたのか、スッと顔を上げた矢沢君は、

「……、うざい」

低すぎる声で一言、目の前の美女にそれだけ吐き捨てたのだ。