岸壁が崩れ、洞窟が現れた。
その洞窟に調査に入り、歪んだ地面から偶然に漏れ出した冷気から逃げる最中に、この人魚は取り囲まれてしまったのではないか。

そう考えれば、さっき俺に聞こえた「人柱」の言葉にもつじつまが合う。


『…お願い、出して!』

…うわ~…
この人魚、丸1日閉じ込められてたんじゃねぇ?
可哀想~…

氷に瞳を凝らしても、白く光る表面で人物の特定までは出来ない。
しかし、この街の人魚の誰かである事には違いない。


俺は洞窟の中で、氷を割る手頃な岩を探すと、それを持ち氷に近付いた。

カツン…カツン…

そう氷を叩くと、
隣に居るジークが驚いた様に俺の腕を止めた。

「……?」

俺が「何で止めるんだ」と顔をしかめると、ジークは必死に何かを訴える様に首を振っている。


「――…!?……!!」

……うーん…

水の中は面倒だ。
何が言いたいのか、全然分かんねぇし。

早いとこコイツを氷から助けて、陸地に上がれば済む事だ。


だから。

俺が、氷を割った。


どうやら、
それが、間違いだったらしい。