孤児院は街外れ。

ここへ帰って来ると無条件に心が落ち着いた。
偽り無い「俺自身」を受け入れて貰える、唯一の場所だった。


他の民家と何ら変わりの無いレンガ造りの古びた外観。

少しばかりの地面からは、緑色の植物が行き場を無くして家の壁にその背を伸ばす。


昔から変わらない光景。

変わっていくのは、中で暮らす子供たちの顔ぶれのみ。


カイトは母親と双子の兄を亡くしてこの孤児院に来た。

俺は物心ついた時から、
この場所で暮らしていた。
親の顔なんて分からない。


――「人魚」だった。

それが理由で、
捨てられたのかもしれない。



「…ふぅ…」

カイトの舟の整理を待ちながら、孤児院を見上げていた目を奴へと戻す。

バタバタと舟と船着き場を行き来し、積み荷を降ろしているのだ。


「まだか…?俺、先に入っていいか…?」

「…なんで!つれない!ちょっとは手伝ってくれたって…って、…あぁあぁぁっ!?」

「…!?」

突然大きな声を張り上げた奴に、「しぃっ!」と人差し指を立てる俺。
反射的に孤児院を見上げる。


もう時間は遅い。

子供たちは寝静まり、
夢を見ている時間なのだ。