確かに、舟は木製で…
舟師にとっては、代々受け継がれる貴重な財産なのだと聞いていた。
街を渡る舟は、年期の入った黒ずんだ物が多い。
俺が静かに首を横に振ると、
「ふぅん」とだけ言い、
男は不思議そうに首を傾げてすれ違った。
道の出口は、
男と会った場所から少し歩いただけで着いた。
そこは闇の季節。
洞窟から外へ出ても、
明るさは内部と変わらない。
ここが本当にあの絶壁の崖の上なのか、周囲が暗くて瞳を凝らしても分からない。
しかし、
カロリスでは珍しい物が、
この場所には、見える範囲だけでも沢山在った。
「……土だらけ…だ…」
洞窟の出口から続くのは、
高低差の少ない広く続く大地。
そして、
「……樹が…こんなに…」
先程の男が背負っていた様な太い幹が、有りのままの姿で沢山立っていた。
その木々の群れの中で、
幾つもの橙色のランプが揺れていた。
しばらくの間は、
この光景を前にただ立ち尽くしていたが、ふとお祖父さんの言葉を思い出し、俺は揺れる橙色の光を目指して歩き出した。
『…上に行ったら、「アラタ」という人物を訪ねなさい。わしの息子じゃ…』

