記憶 ―黄昏の蝶―



「…お前さんが今居る、ここが『道』じゃよ。崖の内部に元々在った道をな、広く掘り進めてわし等が暮らしておる…」

「…そう…なのか…」

「全てを知るわし等にとって、大切な重要な場所じゃよ…」


人々は道を幾度も通り、
家財や植物の種を運んだ。

カロリスに下り、
その中心に進むと、
彼らは目を丸くして驚いた。

「巨大な氷」と、
その透き通り見える中に、
例の彼が、眠っていたからだ。


「……ユピテルか?」

「そうじゃ。人柱じゃよ…」


彼らは理解した。
この天災は、彼が神を怒らせた為に起こったものだと。

理由は分からない。

しかし、
神が彼を逃がさない様に、
彼を氷に閉じ込めたのだと、
誰もが決して助けようとはしなかった。


「………。」

今になって、
俺が、割った…


「氷は人柱の大きさだったが…。昔は大きかったのか?」

「あぁ、巨大だった。その地に光の季節がやって来ると、溶け出したそうじゃ…」


光の季節、
地表から溢れ出す地下水と、
人柱の巨大な氷が溶け出した事で、カロリスには水が溜まっていった。

人々は高台に土を盛り、
その上で暮らすしかなかった。