美形の男の車に乗り込み。車の中は強いムスクの香りに満ちていた。


妻は匂いを身につけるのが嫌いだ。

彼女だったら顔をしかめ、即座に車から降りただろう。


そもそも乗る事はないだろうが。


「改めまして私はこういう者です」


美形の男は信号待ちの間に慣れた手つきで名詞を取り出した。


彼の名前は神谷玄人。
職業はルポライター。
その割には良い車に乗り過ぎだ。

この赤い車は3500万円。

オークションなら5000万になるかも知れない人気の車種である。


だが、4万キロを走れば壊れるこの車種。

余りのパワーにミッションしかも1速が壊れるらしい。


だが、それもあくまで統計らしい。彼の車は4万キロだが、

エンジンもミッションにも異常があるとは思えなかった。


私の視力は2・0。ついでに色々と観察する。

先ずは彼の服装。薄い生地のワイシャツに、

ジーンズ。一見普通の服装だ。

だが、普通ではないのが、珍しい青色のダイヤモンドのネックレスに、


細く美しい右手には、中指に、黄色の石の指輪に、人差し指に緑の石の指輪。


左手には、黒いゴムの手袋をしている。

明らかに怪しい男だった。感覚的な芸術家肌の妻が強い拒否感を覚えた理由が今頃わかった。