「ごめんなさいね。貴方……私の不注意で……」


「大丈夫。気にしないで。じゃあ行ってくるよ」


「はい。車に気をつけて下さいね」


私と妻は子供の交わすキスをして別れた。


「待って下さい。ご主人。私がガソリンスタンドまで送りますよ。私も給油が必要ですので」


美形の男が男の前を通り過ぎようとした私の肩を掴んてそう言った。


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


やった! イタリアの赤いスポーツカーに乗れる!


「待って貴方! 敵の車に乗る気なの!?」

と後ろで妻が大きな声で叫んだ。ドスが効いていてヤクザっぽい声で大声。


かなりの高等技術だ。だが彼女は外科医だ。

大物ヤクザは小さな低い声で脅すらしい。

少し安心した。彼女の父の情報は全く不明。


ヤクザの親分の娘であったかも知れないと先程の暴走運転中に本気で思った。


彼女は普通の青春を送っていないと。

ならどんな青春を送ったのか知らないが。

妻に聞くのも辛いし……いや怖いし、

それに人間には秘密がつきもの。それに私にも妻に秘密にしている事があるのだから。