父が光なら、私は影である。
父親は司法試験の方を優先して弁護士になった。
そこで貧しい人に無料で法律について相談を受けて過ごした。
そして、人気と名声を得て、
貯まったお金を使い病院を開業した。
初めからこの予定だったのだろうか?
私は父の病院で働く事を選んだ。
と言う訳ではない。親の七光りは嫌だったのだ。
だから、法律事務所を作る事にした。
父が昔使っていた場所に。
これで、私は父が一人では行えなかった法律関係を補える予定だった。
だが、現実は甘くなかった。
東京大学文Ⅰに落ちたのだ。
結果、第2希望の北海道大学の医学部に受かった。
結局、医師の道を選ぶ事となった。
すると父親は大いに喜んでくれた。
普段は何も言わない父親だったが、
今回は喜んでくれた。
「お前が医者になるならもう心配はないな。これで、新たなステップに行ける」
新たなステップ。父は50歳。
まだ新たな事をするつもりなのかと驚いた。
それから父親は更に忙しそうに動くようになり、
遂に私と顔を合わせる事もなくなった。
夕食の時、以前はたまに一緒に食事を取ったが、
今は一切なかった。父親が家に帰るのは深夜。
そして早朝に家を出る。
母親は大変そうだった。
私は母親に負担を掛けない為に一人暮らしを始めた。
肉体的に負担を掛けるより、
金銭的な負担を掛ける事を選んだのだ。