胸の前で小さく手を振ってみるが、もちろん反応はない。 勇気を出して少しだけ人混みに近付いてみる。 「お兄さん、ひとりなのー?」 「よかったらぁ、私たちとデートしませんかぁ?」 近付いても吉良くんがこっちを見ることはない。 こ、声かけなきゃ…… 「き、吉良くーん……」 自分ではそれなりに声を出したつもり。 でも人々の雑音に掻き消され、きっと彼には届いてないだろう。 む、無理です私には。 あの人混みに入る勇気はないです。 ごめんなさい吉良くん。 私はやっぱり意気地なしの臆病者です。