怖くて、身体が震えた。
足の力が抜け、倒れてしまいそうになったところを彼女に支えられた。
「吉良くんは……誰のものでもあり、ません」
怖くて逃げ出したくて仕方なかったけど、これだけは言わなくちゃ。
吉良くんは、誰のものでもない。
彼は、彼自身のものだから。
沙緒さんはきっと、吉良くんのことが好きなんだろう。
だからといって、人をもの扱いしていいことにはならない。
私を支えていた腕がすっと離れる。
「ふぅん、偽善者ぶるの?あたし、そういうの大ッキライ」
「……そう思うなら、それで構い、ません」
「なら、あたしも好きにさせてもらうよ?元々影から動くのは趣味じゃないし」
ケーキ屋さんのドアが開いてベルがなった時、彼女は何事もなかったかのように声を上げた。


