奈々ちゃんにとってはかなり嬉しいことのはず。

案の定彼女はうっすら頬を赤く染めていて、嬉しさが滲み出ている。

あたしは「よかったね」と耳打ちした。しかし。



「テニス部の隣かぁ……てことは樋田の隣……」



陸と海がぶつぶつ呟きながら、あたしを卑しい目で見てくる。

うざ!!

二人を思いっきり睨みつけていると、今度は那央があたしに近付いて耳打ちする。



「よかったな、先輩の隣で」



うわーやっぱりまだ誤解してる!

それは違うって、もうはっきり言っておかなきゃ!



「だから那央、あたしは──!」

「でも俺、引くつもりないから」



──力強くて、少しだけ甘さを含んだ声が、身を屈めてあたしの耳元に寄せた彼の唇から紡がれた。

それだけで痺れたように動けなくなって、

あたしは、誤解を解くことも出来なかった。



すでにヤンキー二人と看板の色塗りの作業に戻っている那央を、恨めしい気持ちで見つめる。


中途半端に気があるような言葉を掛けて、あたしの胸を高鳴らせたままでいるなんて、やっぱり卑怯だよ……!

これはあいつなりの作戦なわけ?

那央は、本当に、あたしのことを──?