黒板に書かれる何かの暗号みたいな化学式が、ぐにゃりと歪んでいく。

のんびりした太っちょ先生の声が子守歌代わりとなって、あたしは今にも夢の世界へ落ちてしまいそうだ。


うん、もう負けたよ睡魔様。抵抗するのはやめます。

観念して瞼をくっつけ、カクンと頭を下げたその時、あたしのおでこに何かが突き刺さった。



「っ!! いったぁ……!?」

「あはは、起きた」



接着剤のようにくっついた瞼は、あまりの痛さに簡単に開いた。

目の前には、悪戯っ子のように笑いながら、シャーペンの上の部分をあたしのおでこに向けている舞花の姿。

頭を垂れた瞬間にこれが刺さったのか……!



「ヒドいよ舞花……」

「だって、化学つまんないから昨日の縁の話聞こうと思ったら白目剥いてるんだもん」



あたし白目剥いてた? やば。

おでこをさすりながら、壁を背にしてあたしの前の席に座る舞花に言う。



「……昨日の話って?」

「片霧くんの家に行ったんでしょ! もちろんその話だよ」



そういえば、さっき授業が始まる前に少しだけそのことを話したんだっけ。