「暗いけど大丈夫? 送ってこうか」

「平気平気。だってまだ19時だよ? バイトの時なんてもっと遅い時間に一人で帰ってるし」

「あそっか。チビ達と同じく考えてたわ」



ぷ、と吹き出すあたしに、那央は真面目な顔で言う。



「でも本当に気をつけろよ、女なんだから」



“女なんだから”……か。

そんなふうに気遣ってもらったの、もしかしたら初めてかもしれない。

何気なく発せられたその言葉が少し嬉しくて、あたしは素直に「うん」と頷いた。



「じゃあ、またね。翔くんお大事に」

「おー。さんきゅ」



ペダルを漕ぎ出したあたしは、曲がり角に差し掛かってなんとなく振り返る。

まだその場にいて手を振ってくれる那央に、あたしも笑顔で大きく手を伸ばして振り返した。


──あぁ、なんだかすごく気分がいい。

天に向かって伸ばしたその手で、夜空に煌めく星も掴めそうな気がした。