「『ちゃんと捕まえてろバカー!』と、思いっきり殴って鼻血を出させました……」

「ふっ、思い出したか」



苦々しげに歪んだ笑みを口元に浮かべる陸をよく見てみれば、なんとなく面影があるような気はする。

でも、薄れている人物像を完全に思い出すことは出来ない。

だって、あの頃はもちろんこんなヤンキーじゃなかったし、もっと豆みたいなヤツだった気が。



「効いたぜ、あの時の右ストレートは……。おかげで鼻血は止まらないわ、クワガタは逃がすわ、散々だったよ」

「ご、ごめん……」



今思うと、たしかにあれはあたしが全面的に悪かったなと、素直に謝ったのだけれど。

那央は「さすがは縁だ」と言って、関心したように笑っていた。



「その時から牧野を敵視していた俺は、なんだかんだと因縁をつけてケンカするようになってたんだ」

「タチ悪いなお前」



呆れたように言う那央だけど、あたしの頭の中ではその頃の記憶が涌き水のように溢れてくる。

そして、重要なことを思い出した。



「そうだ! 先輩に助けてもらったあの時、ケンカしてたのもあんただ!」