「あたし、お母さんと二人暮らしなの。小4の時お父さんが事故で死んで、それからずっと」
このことは別に隠しているわけじゃないし、もうお父さんのことを話したってそれほど胸は痛まない。
だけど一瞬、那央はひどく切なそうな顔をした。
「だからかな? よくテレビでやってるでしょ、ビッグなんちゃらとかさ。ああいうのも苦手なんだよね。
賑やかで楽しそうな家族や兄弟を見てると、なんか虚しいっていうか、妬ましくなるっていうか……羨ましくなっちゃうから」
お母さんと二人の生活に不満があるわけじゃない。
でも順風満帆な家族を見ると、どこか寂しい気持ちになってしまうのも正直なところだった。
「……だから、ごめんね」
きっと那央は家族のことをすごく大事にしてるんだろう。
そんな彼に“苦手だ”なんて言ったら、嫌な思いをさせたに違いない。
あたしは目も合わせず謝ると、そのまま立ち去ろうと自転車を押して歩きだそうとした。
いつの間にか分かれ道に差し掛かっていて、あたしはまっすぐ、那央は右へ曲がるはずだ。
すると、那央は自転車を押すあたしの手に、自分の手を重ねてくる。
その温かさと感覚に驚いて、思わず足を止めてしまった。
このことは別に隠しているわけじゃないし、もうお父さんのことを話したってそれほど胸は痛まない。
だけど一瞬、那央はひどく切なそうな顔をした。
「だからかな? よくテレビでやってるでしょ、ビッグなんちゃらとかさ。ああいうのも苦手なんだよね。
賑やかで楽しそうな家族や兄弟を見てると、なんか虚しいっていうか、妬ましくなるっていうか……羨ましくなっちゃうから」
お母さんと二人の生活に不満があるわけじゃない。
でも順風満帆な家族を見ると、どこか寂しい気持ちになってしまうのも正直なところだった。
「……だから、ごめんね」
きっと那央は家族のことをすごく大事にしてるんだろう。
そんな彼に“苦手だ”なんて言ったら、嫌な思いをさせたに違いない。
あたしは目も合わせず謝ると、そのまま立ち去ろうと自転車を押して歩きだそうとした。
いつの間にか分かれ道に差し掛かっていて、あたしはまっすぐ、那央は右へ曲がるはずだ。
すると、那央は自転車を押すあたしの手に、自分の手を重ねてくる。
その温かさと感覚に驚いて、思わず足を止めてしまった。