「樋田先輩、だっけ? 何で好きになったのー?」



自然と一緒に帰ることになり、自転車を押すあたしの横に並んで歩く那央が、間延びしたような声で聞いてきた。

オレンジ色の夕陽に目を細めながら、あたしは樋田先輩と初めて逢った日のことを思い返す。



「……小6の時、男子と結構激しいケンカをしてて」

「おぉ。やっぱり男勝りだったんだ、縁」

「やっぱりって。……で、その男子に叩かれそうになったとこを、たまたま出くわした先輩が助けてくれたの」



『女の子に手上げるなよ、情けない』

そう言って、掴んだ男子の腕を振り払うと、あたしに向かって優しく微笑んでくれた。

女の子扱いされたのなんて初めてで。

その一瞬で、あたしは恋に落ちたんだ。



「あの時の先輩、頼もしくてカッコよかったなぁ……」

「なるほどねぇ。女子ってそーいうのに弱いよな」

「単純だなーとか思ってるでしょ」

「いや? いつどんな時に誰を好きになるかなんて人それぞれじゃん」



ニッと笑う那央は、決してあたしの恋をバカにすることはなく。

舞花以外に初めてこんな恥ずかしい話をしたけど、話すんじゃなかった、なんて後悔の気持ちはどこにもなかった。