コイツ、俺の嫁候補。

でも靴を履き換えて外に出ると、あたしの思考は一気に切り替わった。

だって、あたしの前に麗しきテニスの王子様がやってきたから……!

部活中なのだろう樋田先輩は、ジャージにTシャツ姿で、今日も爽やかな汗をかいている。

あたしに気付くと、その綺麗な顔に笑みが生まれた。



「あ、牧野さん」

「ここっ、こ、こんにちは!」



名前を呼ばれたことにドキッとして、ニワトリみたいにどもってしまった。

そんなあたしにも、樋田先輩はキラキラスマイルを向けてくれる。



「今帰り?」

「はい!」

「気をつけてね」



先輩と会った時にいつも交わすのは、こんな短い会話と言えないような会話。

それでも、今この瞬間だけは彼の笑顔を独り占め出来るのだから、それだけで幸せな気分になれる。


……けれど、今日はこれだけでは終わらなかった。



「牧野さんって、皆神(ミナカミ)公園の近くのコンビニでバイトしてるよね?」



ペットボトルのスポーツドリンクを飲んだ彼は、タオルで汗を拭いながらそう言った。

え……あたしそんなの教えたこともないのに、何で知ってるの?