いつになく重い足取りで駐輪場に向かい、素肌がつっぱるような寒さの中を自転車で駆け抜ける。

アパートがある通りまで来ると、あたしの部屋のドアが開くのが見えた。


出てきたのは──健司おじさん。

二人が休みの時、たまに家に来ることがあるけど、今日もそうだったのか……。

後からお母さんも出てきて、どうやら帰るおじさんを見送るらしい。


別に隠れる必要なんてないのに、あたしは咄嗟に脇道に入っていた。

身を潜めながら二人の様子を盗み見る。

すると、玄関のドアの前でいくつか言葉を交わした後、おじさんがお母さんを優しく引き寄せた。


──ドキン。

抱き合う二人に、胸が複雑な音を奏でる。


声は聞こえず、まるで無声映画のワンシーンのよう。

二人が赤の他人なら、ただうっとり眺めていられたかもしれない。

でも、今のあたしには受け入れられるものではなくて……

すぐに顔を背けると、二人に気付かれないうちに、元来た道を再び自転車で引き返した。