コイツ、俺の嫁候補。

「なんかわかるかも。静かだし、頭の中リセット出来る感じがする」



時間の流れをあまり感じなくて、いつまででもいられそうな気がする。そんな場所だ。



「縁と来ると、また特別な場所って感じするな」



小降りになった雨音に混じって、優しい声が耳から伝わってきた。

同意を示すように、きゅっと手を繋ぎ直す。

二人でいれば、どんな場所も特別な場所になるのかもしれない。



何気なく、頭一つ分背の高い那央を見上げると、彼の瞳もあたしを捉えた。

視線が絡み合い、引き寄せられるように彼の顔が近付いてくる。


──キスされる……

そう予測して、ドキドキしながら瞼を閉じた、その時。



「──あれ、兄ちゃん!?」



唇が触れ合う寸前で、聞き覚えのある声があたし達の後ろの方からこだました。

慌てて顔を離して振り返ると、傘をさした翔くんが友達らしき男の子と歩いてくる。

それを見て、那央はあからさまに肩を落とした。



「ったく、どこ行ってもうちの誰かに会うんだよな……。今日こそは誰にも邪魔されねーと思ったのに!」