「縁……」



歩いているうちに、我慢していた涙が一気に溢れてしまっていた。

そんなあたしに、那央は気の毒そうに眉を下げて頭を掻く。



「あー悪い……。ショックだったよな、先輩があんなふうに思ってたなんて」

「何で那央が謝るの……。ていうか、先輩のことは好きじゃないし、それはもうどうでもいい」



疑うような視線を向ける那央に、あたしは鼻をすすって「本当だよ」と念を押す。



「ただ、なんか色んなことが悔しくて。……でもそれ以上に、嬉しかったの。那央が、あたしのことをちゃんと見ててくれたことが……」



那央だけは、こんなあたしを認めてくれる。

海で小さな貝殻を拾うみたいに、

あたしの良い部分を見付けて、拾い上げてくれる。

那央だけは──。



とめどなく温かい涙をぽろぽろとこぼしていると、那央の長い指が頬に触れる。

潤んだ目で見上げると、優しく微笑む那央があたしの涙を拭ってこう言った。



「当たり前だろ。俺、縁しか見てねーもん」