コイツ、俺の嫁候補。

いつの間にか空は薄紫に変わっていて、陸と海もさっさと逃げたらしく姿がなかった。

あたしはテントの下の片隅に置き忘れていた、水着が入ったバッグを引っつかむ。



「行くよ那央!」

「は、はい」



何故か敬語になる那央を引き連れ、治まらない怒りでドシドシと芝生を踏み付けながら歩き出した。



「さようなら……樋田先輩」



振り返らず、まっすぐ前を見て歩く。

先輩はあたしが何で怒ってるのかわからないかもしれないな。

でも、余計なお世話だけど、このままだと奈々ちゃんが傷付くことになるような気がして、黙っていられなかった。

あとは二人の問題だけど、奈々ちゃんの真剣な想いを弄ぶようなことだけはしないでほしい。





「いやーなんかスッキリしたわ!」



少し涼しくなった風を身体に受けながら、自転車を押すあたしの斜め後ろを歩く那央が声を上げる。

見えないけど、きっと大きく伸びをしてることだろう。



「俺も一発お見舞いしてやりたかったけど、本当に殴るとは……さすが縁だな!」



横に並び、ぽんっと肩に手を置いた那央は、あたしの顔を見やると足を止めた。