コイツ、俺の嫁候補。

殴られてバランスを崩した先輩は、後ろのテーブルに手をつき、その振動で乗せていた荷物がドサドサと落ちた。

頬を押さえた彼は、目を白黒させながらあたしを見る。



「縁っ……!」



さすがに那央も驚いたらしく、目を見開いている。

あたしは肩で息をしながらキッと先輩を睨み据えた。



「奈々ちゃんは先輩が思うより、ずっとずっと深く先輩のことを想ってるんです! ファンの女子なんか比べものにならないくらい本気で……!」



あの時、『好きなんです』と言った奈々ちゃんの、純粋な笑顔が脳裏を過ぎった。

何故だかまた涙が溢れてくる。



「可愛いからとか外見だけ見て、軽い気持ちで付き合おうなんてもう思わないで! もっと真剣に、本気で奈々ちゃんと向き合ってください」



放心状態の先輩に、あたしはトドメの一言を吐き捨てる。



「もしあの子を大切にしてくれなかったら……今度は先輩の大事なトコ蹴り上げて、使い物にならなくしてやりますから」



チラリと股の部分を一瞥して言うと、彼の顔からサーッと血の気が引いていった。