コイツ、俺の嫁候補。

「ずっと前から可愛いと思ってたし、タイプなんだ、ああいう子。前の彼女とも別れたし、奈々ちゃんも想ってくれてる。付き合うことに何か問題あるかな?」



何も悪びれた様子もなく、小首をかしげる先輩。

あたしは呆れながら納得した。


あぁ、この人もあたしと同じだったんだ。

まだ本当の恋を知らない、少し前のあたしと──。


ただ相手が自分に気があるから、可愛くてタイプだから付き合って、その人の中身を見ていないからすぐ嫌気がさして別れる。

本当に好きになっていないから、その繰り返しなんでしょう?


──本当の恋は、もっと心が動いて、頭ではそれを上手くコントロールすることも出来なくて。

だけど、相手を想うだけで涙が溢れるくらい、胸が温かくなる。

それが誰かを“好きになる”ってことなんだと、あたしはもう気付いたよ、先輩。



「……先に謝っておきます、ごめんなさい」

「え?」



ハテナマークを浮かべる那央を押し退け、同じような顔をする先輩の前に立ったあたしは。



「この……乙女の心を弄ぶエセ王子めがーー!!」



中庭に罵声を響かせ、グーにした拳を先輩の綺麗な頬にヒットさせた。