「……透子か……なんか用?…俺、今一人になりたいんだけど……」


海をボンヤリ眺めながらそう言った。


「……栗原さん、さっき戻ってきた。……訊いたら、ユキはまだ浜辺にいるっていうから…」

「……ふ〜ん。……透子も戻れよ。蚊に食われんぞ」


そう言ったけど、透子は戻ろうとしなかった。

しばらく二人とも喋らなかった。

波音だけが優しく聞こえて、その音に虚しささえ感じた。


今は、何にも考えたくない。


ここにいれば波音が全部さらっていってくれるんじゃないかって、そんな錯覚さえ感じる。


ボンヤリ海を眺める俺の背後で透子がようやく口を開く。


「……ユキ………ユキは……栗原さんのこと、好きなの……?」

「……なんで?んなわけねぇじゃん」


ちょっとだけ笑いながら返事するけど、透子は真剣だった。


「……嘘。……じゃあ、どうしてさっき泣いたの……?」


透子のその言葉に、砂をいじっていた手が止まる。


見られてたなんて思ってなかったから。


「……は?泣いてねぇーし」

「誤魔化さないで」


いつも無愛想で言葉まで無表情なくせに、その言葉はなんだか少し寂しく、そして優しく聞こえた。


「………好きだよ……」


大きくため息を吐いてから、透子に自分の気持ちを初めて吐いた。


「……おかしいっしょ?『妹』なのに……笑いたければ笑えば…?」


今まで砂をいじっていたせいで、そこには山が出来ていた。


それを見て優花と海に行った時のことを思い出す。


今は、何にも考えたくないのに……なんで俺の頭は優花でいっぱいになるんだろう。


その山を右脚で蹴って潰した瞬間、俺の背中に温もりを感じた。


ギュッて胸に回された両手に、背後から透子に抱きしめられたんだと気づいた。