「ところで優斗くん。聞いても良いかな?」
「何ですか?」
「どうしていきなりアメリカ行くのよ。
寺内遼平とか上田風真に聞いて、驚いたんだからね?
前日に私の家に来たのなら、その時言ってほしかったよ」
「・・・日下さんだから言えなかったんですよ」
何故か眼鏡を外しながら優斗くんは言う。
普段は大きな眼鏡に隠れて見えない、茶色い二重の瞳が私を見ている。
「あの学校内で、っていうか僕の今までの人生の中で、1番仲が良かったのが日下さんなんです。
僕は今まで友達なんていませんでしたから、こういう時にどうやって伝えれば良いのか、伝える術が僕にはなかったんです。
この間日下さんの家にお邪魔したのは、勿論お礼を言うためでした。
ついでに言おうとは僕も思いましたよ。
でも、いざその場に立つと、何から言っていいのか頭が真っ白になったんです。
それで何も言えぬまま日下さんの家を出て、家へ帰りました。
すぐに荷物をまとめないといけなかったので。
忙しかったのでメールとか電話も出来ませんでした」
テヘヘとでも言いそうな表情だ。
そんな表情でも可愛いのが、少しムカつく。
「そうなんだ・・・。
ところで、行かなくて良いの?」
「良いんです・・・行かなくて。
元々僕は勉強なんて好きじゃありませんし、研究所とかに入ろうなんて微塵も思いませんでした。
僕の人生ですし、僕の生きたいように生きようかなって思ったんです」
・・・何か考えが前向きになっている?


