「・・・意思がないからです、優斗様には」
「意思がない・・・?」
「優斗様にとって、ご両親は敵わない絶対的存在。
断るという行為自体・・・諦めているかもしれません」
「そんな・・・。
水門くん、人形じゃないんですよ?」
「優斗様の過去を知っておりますか?」
「あ・・・はい。一通りは」
「優斗様は昔から勉強漬けの毎日でした。
ただ舞原の跡取りになることだけを考えて。
しかし美夏様がIQ200を突破した時点で、その思いは砕け散りました。
優斗様は諦めずに取り組むも縁を切られてしまいます。
今のお父上からは暴力を振るわれ、学年トップの成績を保持するよう迫られ、ストレス発散の道具として生きております。
こんな人生を歩んできたお方です。
自分の意思なんて、必要ない。
優斗様はそう考え、人形のように生きています」
今の話を聞いて疑問が浮かんだので、質問してみることにした。
「どうして校長は、優斗くんをストレス発散の道具とするんですか?」
「・・・高広様の奥様、優斗様の義理のお母様は、家には帰ってきますが、殆どを他の男性と過ごしています。
別居中と考えても間違いではございません。
きっと奥様は、優斗様の状況を把握できておりませんね。
理由はわたくしも詳しくは存じませんが、きっと奥様のいない寂しさを優斗様に当てているのでしょうね。
それを優斗様も受け入れてしまいますから・・・」
初めて知った、水門家の複雑な事情。
私は自然に涙が出ていた。


