こっちこっち、と手招きする美緒さん。

その視線の先には、彼女に優しい眼差しを向ける先輩。


二人が主人公の純愛映画を見てるように、先輩と美緒さんの会話だけが鮮明に耳に届く。

初めて見る先輩の“彼女”の姿、二人の仲睦まじ気な様子に、身体が地に根を張ったように動かない。



「ねぇ、並ぼうよ!いいでしょ?」


美緒さんは甘えるように先輩の腕に自分の腕を絡めてぴたっとくっつく。


やめて…触らないで…
私の先輩に、近寄らないでっ‼︎

頭の中で叫ぶも、声にはならない。


「いいよ。短気で待つのが苦手な美緒が、この長蛇の列を順番までじっと大人しく待てるなら、な?」

「もう!失礼ね!待てるわよ」


二ヒヒッと意地悪に笑う先輩のお腹を、美緒さんが軽く叩く。

その後、幸せそうに笑い合う二人の姿に、激しく胸が痛んだ。


ねぇ、先輩…
先輩が好きなのは私だよね?


『…好きだよ。俺も恵里奈が好きだ』

『美緒とはすぐに別れる。だから、信じて待っててほしい』


あの言葉を、私は信じて待ってていいんだよね…?