それから先輩に手を引かれ連れて来られたのは、昨日先輩と待ち合わせした公園だった。

ベンチに先輩と少し離れて腰を下ろす。
私達の姿は、植木が邪魔になって通りからは見えない。

住宅街にあるここは、車の排気音も街の騒音もなく、夜になると静寂に包まれる。


先に口を開いたのは先輩だった。


「昨日は行けなくてごめん。電車の中で偶然、美緒(みお)と会って」

「美緒って彼女さんですか…?」


先輩はしまったと言わんばかりにハッ息を飲むと、もう誤魔化せないと思ったのか軽く頷いた。


「そう…ですか」


正直、初めて先輩の口から彼女の名前を聞いて、思った以上にショックが大きい。

ふつふつと怒りや嫉妬が沸き起こってきて、今にも震えそうな身体を抑え込むように手を強く握る。


「待ってたんですよ…ずっと。来てくれるって信じてたのに」

「…ごめん」


言い訳もせず頭を下げる先輩。

違う…謝ってほしいわけじゃない。

謝られるぐらいなら、無理矢理連れて行かれたんだとか、本当は私と会いたかったとか、言い訳の一つでも並べられた方がまだ良かった。