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私はまた、自分の妄想の世界に入ってしまったんだろうか。

キャアキャアと耳障りな黄色い声も、今は全く気にならない。



「今日一日、臨時コーチとして練習に参加させてもらいます。最近、運動不足気味で皆さんについていけるか不安ですが、お手柔らかにお願いします」


日曜日の午後。
準備体操をしていると、顧問から集合の声がかかった。

そこで顧問が紹介したのは、見慣れた白いテニスウェアに身を包んだ先輩で、私はしばらく固まるしかなかった。


だってそうでしょ?
いるはずもない人が突然目の前に現れたら、誰だって驚くはず。

しかも、その人は誰よりも好きな人で。
今一番会いたい人だとしたら尚更のこと。


宜しく、と部員を見回した先輩とぱちっと目が合う。

ほんの一瞬、ふっ、と先輩が微笑んだ気がして、カァッと熱くなる頬を隠すように俯いた。


「恵里奈…大丈夫?」


隣りに並ぶ瀬奈が俯いた私に気付いて、心配そうな声で耳打ちしてきた。