ーーーーー8年前。

京子がパリに発ってから数ヶ月が過ぎた。
あれから一度も京子から連絡もなければ、噂も聞かない。

どうやらハルにも音沙汰がないようで。

無事にパリに着いたのか。
就職先は見つかったのか。
住むとこは?生活費は?コミュニケーションは?

仕事中も休日も、京子のことばっか考えてしまう。

そんな意外と女々しい自分に驚いてため息が出るほどだ。



『また眉間に皺寄ってるわよ』


俺の部屋に来ていたハルが俺の眉間の皺を伸ばすように人差し指をグリグリと押し付けてくる。

その手を『やめろよ』と振り払うと、ちょうど携帯が震えた。


『剛がいつまで経っても引きずってるからでしょ?私、聞いたわよね?このままでいいの?って』

『ああ…』


ハルの戯言を右から左に受け流しながら届いたメールを開く。
メールは、この間街で声を掛けてきたサナエという見知らぬ女からで、今夜の夕飯の誘いだ。


『ああって。あんた聞いてるの⁉︎』

『悪い。俺、用事出来たからもう帰って』