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夜の高速道路を30分程走ると、海水浴で有名は街で降りた。
海岸沿いを進み駐車場に車を停め、エンジンを切る。

始終無言でラジオの声しか聞こえなかった車内が更に静まり返り、恵里奈の緊張と戸惑いで震える心臓の音が聞こえてきそうだ。



「ちょっと歩くか」


俺と目が合うと、すぐに視線を泳がせた恵里奈は、コクンと小さく頷いた。

今は二人きりの密室よりも外で話した方が、恵里奈も幾らかいいだろう。


「寒いからこれ着てけ」


後部座席に置いてあった自分のコートを恵里奈に渡す。

冬の夜の海は底冷えするような寒さだ。

お洒落なのか、恵里奈はこの季節にしては少し薄着な気がする。
風邪を引かれては困る。


「…ありがとうございます」


ボソッとお礼を言うと、コートに腕を通す。

座っててもわかるぐらい俺のコートは恵里奈には大きくて、袖なんか指先まで隠すほどだし、ファスナーを上まで上げると顔が半分隠れてしまう。


自分のワイシャツを彼女に着せると、ワンピースのようになって堪らなく可愛いとよく言うが、なんとなく今ならその気持ちが分かる気がする。

やや赤くなった顔がバレる前に、一度咳払いをすると車から降りた。