この顔をする先輩を知ってる。
前にも同じようなことがあったし。
和やかだった気持ちが、一気に不安と嫉妬に変わる。
「この映画さ、やっぱりやめない?」
ドクンッと重苦しく鳴る心臓。
必死に声が裏返ったり震えたりしないように、唾を飲み込んだ。
「っ、どうしてですか?」
「…いや、その」
「あ!もしかして、先輩ってラブストーリー苦手ですか?男の人って苦手な人多いですもんね」
先輩の口から決定的な事を言われるのが怖い。
あの言葉だけは、聞きたくない。
先輩に話す隙を与えないように、必死で言葉を探す。
「じゃあ何見ましょうか?今の時間だと…あ!あれなんかどうでしょう?アクション映ーー」
「…彼女が見たがってるんだ」
先輩は私の言葉を遮って、私が一番聞きたくない言葉を発した。
“彼女”
先輩を独り占めすることを許された、たった一人の女性。
名前も顔も知らない。
だけど、私はその人が憎くて憎くて、嫌い。