『京子が決めたなら、俺は反対しない。する資格もないしな』


俺は、京子の親でもなければ婚約者でもない。
その決断を、俺がどうこう言うことじゃない。


それに、俺は一緒に行ってやることも出来ないから。

俺にも夢がある。
ハルと二人でオアシス・カフェをオープンさせること。

店名もメニューも店舗も、もう大体のことは決めてある。
あとは、資金を集めるだけ。

京子は京子の、俺は俺の。
信じた道を歩いていくんだ。


『…剛は、私が遠くに行っちゃってもいいの?』

『……』

『止めてくれないの?』


京子の目が揺れ、一筋の涙が頬を伝った。
人に弱さを見せない京子の、初めての涙。

京子が唯一迷ってるとすれば、それは俺だ。
俺という存在があるから、京子は切なそうな顔をしてるんだろ?

本来の京子なら、夢だったパリ行きを決めて生き生きとしてるはずだ。

瞳をきらきらと輝かせてるはずだ。


俺が最後に京子にしてやれることは、別れることだけだ。