スイーツの本場、パリ。
パティシエを目指す誰もが一度は憧れ、夢に見る聖地。

だけど、夢見たところで、現実にパリに渡る奴はほぼいないに等しい。

渡航費、生活費はもちろん。
学生の留学とは違って、向こうでの弟子入り先を自分で見つけなければならない。
最初は給料だってバイト程度にしか貰えないだろう。

言葉の壁だって存在する。

知り合いだっていない。

頼れるものは何もなく、全て自分でやらなければならない。

過酷な道だ。


京子がパリに憧れていたのは知ってた。
だけど、本気で行くなんて、誰が想像出来た?


京子の部屋を見渡す。
今思えば、部屋が片付けられてる。

本棚にギッシリ詰まってた料理本や漫画は、数冊しか残ってない。
年中、換気のために開いてるクローゼットには数着のワンピースやらコートが掛けられてるだけ。


『…本気なのか?』

『本気だよ』

『そうか』


京子の目も声も、嘘は言ってない。
パリ行きに関して、迷いもないだろう。

ただ、一つを除いては。