『メリークリスマス、剛』
『メリークリスマス』
カチン、とワイングラスの音が響く。
この時期定番の洋楽のクリスマスソングをBGM程度に流し、二人で作った料理に舌鼓を打つ。
他愛もない話をしながら久しぶりの二人の時間を楽しんでいると、最後のケーキを取り分け終えたところで突然、『ねぇ、剛』と京子がフォークを置いた。
さっきまでお腹を抱えて笑っていた京子が、何かを決意したような、だけど寂しそうな、なんとも言えない表情で俺を見据えてくる。
『…そんな改まって、どうした?』
良い話じゃないことぐらい安易に想像出来る。
京子は一呼吸置くと、思いも寄らないことを口にした。
『私、パリに行こうと思うの』
『は?パリ?誰と?』
『一人で』
『それは一人旅ってこと?』
京子は俺の問いに、ゆっくりと首を横に振った。
『自分の力を、パリで試したいの』
突拍子もない京子の発言に、頭がついていかない。
ただ今わかることは、京子は冗談ではなく、本気だということだけ。
京子が俺の前から、いなくなる……?