これ以上、求めたらいけない。

これ以上、踏み込んだらいけない。

これ以上、夢を見たらいけない。


そんなこと十分すぎるぐらいわかってるのに…

こんな先輩を見たら、止まれないよ…



「先輩…」


先輩の頬にそっと触れる。

初めて触れた先輩の頬は、少し冷たくて柔らかい。


先輩はビクッと肩を揺らすと、目をやや見開いて私の目を見据えた。



「もう一回……呼んで?」

「…えっ…?」

「恵里奈って…もう一度だけでいいから、名前で呼んで…?」


カフェで私の手を取った時、確かに先輩は私を“恵里奈”って呼んでくれた。

いつもは“ちゃん”付けだったのに。


あの時、並木さんにヤキモチを焼いたから、そうやって呼んでくれたんだよね?


嬉しかった。
まるで私は先輩のモノだって言ってくれてるような気がして。

ただ呼び捨てで呼ばれただけなのに、特別な気がしたんだ。