その後、先輩が帰っていくまでの間、二人のやりとりは殆ど頭に入って来ることはなく。

唯一入ってきたのは、


「幸せになれよ」


その先輩の一言と、嘘偽りのない優しい笑顔だけ。


先輩がいなくなると、しばしの沈黙が流れる。

私の頭の中は、さっきの並木さんの発言のせいで混乱しているというのに、


「ほら、帰るぞ」


当の本人は、まるで何事もなかったようにいつも通りで。


「なんで普通でいられるんですか…?」


先に歩き出す並木さんの背中に呟いた。

意味がわからな過ぎて、混乱はふつふつと苛立ちに変わっていく。


もう嫌だ…
私ばっか余裕がなくて。

なんで並木さんがここにいるのかも、さっきの言葉の意味も。
並木さんのことが全くわからない…


期待が膨れ上がる度に、それ以上大きくならないように潰される。
期待すんな、と言わんばかりに。


「どうした?」


私の呟きが並木さんに聞こえることはなくて。

心なしか機嫌が良さそうに微笑む並木さんに、苛立ってるはずの私の心は現金で、ドキッと心臓が高鳴った。