「柚姫」


突然低い声が聞こえ目をやると、店から男性が出て来てこっちに歩いて来るところだった。


あれ?あの人…
確か店のスタッフの槙村卓人さんだ。
瀬奈が、あの人が店の人気No.1だよって教えてくれたからよく覚えてる。

ここはホストでも執事カフェでもないのに客が勝手に人気ランキングをつけていて、彼ら目当てで来る客もいるらしい。

確かNo.1の彼は、超が付くほどの女嫌いで冷酷で、店では絶対に笑わないって言ってたっけ。


「あっ、卓人さん!」


平井さんはパァッと花が咲いたような笑顔になり、若干頬も赤らめている。


この反応って…
まさか平井さんの彼氏って、女嫌いで有名な槙村さんなの?


槙村さんは平井さんの目の前で足を止めると、


「ったく、遅いから心配したぞ?」


そう言って、ぽんぽんっと平井さんの頭を撫でた。


「ごめんなさい」

「お前が無事ならいい」


ふっ、と笑う槙村さんからは瀬奈が言ってた冷酷さなんて全く感じられない。
それどころか、彼女を愛おしそうに見つめながら穏やかに笑ってるし。