「いや、やめとくよ。礼奈、そのリングは戻して、他のショップに行こう」

「えー……」

 不満そうな礼奈の手を掴み、リングを桐生に返した。桐生からのプレゼントなんて絶対に受け取ってたまるか。

 礼奈には、この俺がプレゼントするんだから。

「創ちゃんの意地悪」

 俺が意地悪?
 俺が悪いのか?
 は? 俺が?

 親が経営しているショップで、我が物顔で商品をプレゼントすれば女子の気が惹けると思っている桐生が悪いんだ。

 大体プレゼントとは、ショップの商品を渡すことではなく、俺みたいにバイトして稼いだ金で買うもんだ。

 それを受け取ったら、礼奈が万引きしたみたいだろう。

 背中に桐生の視線を感じながら、俺は礼奈の手を掴みショップを出た。

 ――結局、原宿で他のアクセサリーショップを回っても、気にいったリングが見つからず、礼奈はずっと拗ねている。

 二時間歩き回り、何も買わずに礼奈を自宅まで送り、玄関先で礼奈をギュッと抱き締めた。

「きゃう」

「高校の入学祝い」

「……っ、創ちゃん」

「リングはもう少し待って欲しい」

「もう少し?」

「ガラス玉じゃなくて、本物の宝石がついているリングをプレゼントしたいんだ。俺、頑張るから。それまで待ってて欲しい」

「本物の……宝石?」

「うん。あのキャンプの夜に見た星みたいにキラキラ輝く宝石。だから、今は……ハグで我慢して」

「我慢するぅ」

 一匹だけではなく数匹の狼の存在に、俺は若干焦っている。

 高校生になった礼奈が、合格祝いをハグだけて満足してくれるのか、同じ高校で毎日顔を合わせている狼の方が、礼奈との距離がうんと近い気がして、俺はみっともないくらい焦っていた。