「やだ、鈴木先輩。山梨先輩のことではありません。えっと……」

 高校生の視線が俺に向いている。
 これから、礼奈とのイチャイチャをみんなに見せつけるんだ。ちょっとドキドキするな。

「こんにちは。南さんのお兄さんですか?」

 ……またか。
 いつも礼奈の兄貴に間違えられるんだよな。

「南のお兄さん!? はじめまして。山梨です」

 みんなより一歩前に出て、自己アピールを始めた男子。こいつが、山梨か。

 高身長でイケメン、爽やかなスポーツ少年。
 なんてかっこいいんだ。

 ……ま、負けた。

「みんな、この人はお兄ちゃんではありません。えっと……私の付き合ってる人です」

「えっ……!? 南の彼氏。本当に交際している人がいたんだ……」

 山梨は唖然としている。
 見るからにショックを受けているようだ。

 ……勝ったかも。

「創ちゃん、偶然だね」

 礼奈のセリフは棒読みでぎこちない。
 まじで、女優にはなれないな。

「ほんと、偶然だね。サッカー部の皆さんですか? 礼奈がいつもお世話になってます。こいつサッカーのこと何も知らなくて、皆さんの邪魔をしてませんか?」

「いえ……とても一生懸命で助かっています。でも南さんに年上で大人の彼氏がいたなんて、驚いたな」

「私も驚いた。お子ちゃまの礼奈には勿体ないほど素敵な彼氏ですね。私、山本百合野です。今度大学の友達を紹介して下さい。サッカー部内恋愛禁止で、彼氏も作れなくて困ってたんです」

「百合野、無理言わないで。皆さんすみません。私はここで失礼します」

「あぁ、そうね。南さん、さよなら」

 礼奈が俺に歩み寄る。俺は計画通り礼奈と手を繋いだ。指先を絡めた恋人繋ぎだ。

 山梨は目を見開き口をポカンと開けて、俺達の手をじっと見つめた。俺は礼奈に耳打ちする。

「礼奈、いい感じ」

「うん、創ちゃんもいい感じ」

 俺達はわざと体を寄せ合う。人に見られてると思うと、妙にコーフンするな。

「これで山梨も諦めただろう」

「これで鈴木先輩のことを意識してくれるかな」

「あとは彼女次第だな。礼奈、制服でデートなんて初めてだね」

「うん」

「ドキドキするな」

「やだ、創ちゃんも? 礼奈もドキドキするぅ」

 駅前のアイスクリーム屋でストロベリーアイスを買って、二人で仲良く食べた。子供みたいに鼻先にアイスを付けた礼奈。右手の指先でアイスを拭い口に含む。

 学校帰りのデートも、たまにはいいな。

 これで、狼を一匹退治した。