「盗み聞きしてません。グラウンドで堂々と告ってるから嫌でも聞こえるのよ。キャプテンを辞退するの?それとも大好きなサッカー部を辞めるつもり?」

「どうしてそこまで話が飛躍するかな。退部する意味がわからない」

「新人マネージャーに手を出すのなら、それくらいの覚悟でしなさい。恋を取るか、サッカーを取るか、どっちなのよ!」

「俺は南に片想いしてるだけだ。交際しているわけじゃない。それなのに、どうしてそんな話になるんだよ?お蝶だって片想いの相手くらいいるだろう。高三で好きなやつもいないのかよ」

 山梨先輩、そんな言い方しないで。

 鈴木先輩は山梨先輩の言葉に唇を噛み締めた。

「私だって、恋くらいしてるわよ」

「……えっ?お蝶が恋?」

「私だって、好きな人くらいいるわ。バーカ」

「ば、ばか!?」

 鈴木先輩はバケツを掴みプイッとその場を離れた。

「何だよあいつ、いきなりバカって酷くない?」

「山梨先輩はバカですね」

「南?」

「本当にバカですね。女子の気持ちをわかってない。山梨先輩、私……交際してる人がいます。その人のことが世界一大好きです。だから山梨先輩の言葉には応えられません。それに山梨先輩にはサッカー部を辞めて欲しくないから。今は部内恋愛禁止のルールは守って下さい」

「南……」

「先輩には、私よりももっともっと素敵な人がいますよ」

「南に交際している人がいるなんて……。まさか一橋じゃないよな?それとも桐生?」

「それは……」

「おい、山梨。いつまでマネージャーと喋ってんだよ。ランニングをサボるな」

「はい、キャプテンすぐ行きます。ヤバッ、立見先輩に怒られた。もう行かないと」

 山梨先輩は苦笑いしながら、校庭をランニングしている部員を追い駆ける。

 鈴木先輩はグラウンドの隅で、スポーツ飲料やタオルの準備をしながら、山梨先輩を見つめている。

 夏休みまであと数ヶ月だ。
 部活を引退したら、鈴木先輩の恋も解禁だね。私、絶対に二人の恋のキューピッドになるんだから。

 鈴木先輩の気持ちを、山梨先輩に受け止めて欲しいから。