【創side】

「それでね、鈴木先輩ってとてもいじらしいの」

 大学の講義を終えて礼奈の家に遊びに行くと、礼奈は夢中になって俺に部活の恋話をした。

「ふーん。部内恋愛禁止か。確かにマネージャーと男子部員が恋愛をしてると、他の部員には悪影響だよな」

「そうかな? 恋をしていることが、そんなに悪影響なの?」

「スポーツの世界は、高校生の部活でも厳しいんだよ。だから、礼奈もマネージャーの仕事に専念しろ。ていうか、何で礼奈がマネージャーなんだよ。そもそもサッカー部のマネージャーになる意味が俺にはわからない。俺という彼氏がいながら、むさ苦しい男の中に自ら飛び込むなんて、理解不能だよ」

 俺は文句を言いながら、口を尖らせる。

「礼奈は恋のキューピッドになりたいの」

「は? 恋のキューピッド? 誰が誰のキューピッド? 山梨は礼奈に告った男子だろう? それはあまりにも無神経だよ」

「無神経?」

「好きな女子に、他の女子との恋を応援されても嬉しくないだろう」

「山梨先輩はもう礼奈のことなんて、好きじゃないよ」

「どうしてそう言い切れるんだよ?」

「どうしてって……。礼奈は創ちゃんが好きだから」

「全然、答えになってない」

 だけど、めっちゃ嬉しい。

「部内恋愛禁止だけど、鈴木先輩が部活を引退したらいいんだよね。三年生は夏休みに引退だから、それから交際すればいいのにね」

「それは両想いの場合だよ。片想いだとしたら、そうそう上手くはいかないよ」

「早く両想いになればいいのにね」

「人の気持ちは、そう簡単に変わらないよ。俺が礼奈以外の女性に心が動かないみたいにな」

「うひゃあ」

 礼奈は嬉しそうにクシャッと顔を緩めた。
 俺もクシャッと顔を緩める。

「うひゃひゃあ」

 チューしようと唇を近付けた時、部屋のドアがバンッと開いた。お邪魔虫の登場だ。

「そこのバカップル、うひゃうひゃ煩いぞ。薄気味悪いだろ」

「……敏樹か、邪魔すんな。ていうか、お前の耳はドアに張り付いているのか? それとも妹の部屋を盗聴とか盗撮りしてるのか?」

「アホか。礼奈に手紙を届けに来たんだ」

「手紙? まさかお前が不幸の手紙を?」

「これのどこが不幸の手紙なんだよ。ブルーの封筒、綺麗な文字。どう見てもラブレターだろう」

「LINEやメールじゃなくて、今時、ラブレター? まさか?」

 敏樹が目の前でヒラヒラさせているブルーの封筒を、俺より先に礼奈がジャンプして奪い取った。