「なんだ、知ってたの?会ったことあるんだ。そんなにイケメンなの?」

「うん、芸能人みたいにカッコいいよ。入学式にも来てたし、中学生の時に原宿でデートしてた」

「そんなにかっこいいんだ。私にも今度紹介してね」

「……うん」

 桐生君の視線が私の首筋を捕らえた。
 私は左手で首筋を隠す。

「これは虫刺されだよ。ただの虫」

「なんだ、狼かと思った。昨日『がうぅ……』って、唸ってたからな」

「……っ、狼!?」

 どうやら、桐生君は狼の正体をお見通しのようだ。

「俺も南の狼になりたいな」

「きゃう!?」

 桐生君は意味深な笑みを浮かべ、教室に入り席についた。

「ちょっと礼奈、狼ってなによ?」

「な、何でもない」

 始業のチャイムが鳴り、百合野も席に着く。 私は首筋が気になり、授業中もずっと隠していた。

『俺も南の狼になりたいな』だなんて、冗談にしても度が過ぎる。ドキドキすること言わないで欲しい。

 ◇◇

 六限目の授業を終え、桐生君は部活に向かった。まだ部活に所属していない私は、百合野と一緒に下校する。

「礼奈、部活決めた?」

「まだだよ。百合野は?」

「私ね、サッカー部のマネージャーになりたいんだ。山梨先輩もいるし、サッカー部はイケメン揃ってるしね」

「イケメン? そんな理由でマネージャーがやりたいの?」

「サッカー部のマネージャーは三年生だから夏休みで引退でしょう。だから、急募してるんだよ。一人でするのは不安だから、礼奈も一緒にマネージャーしようよ。今から見学しない?」